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31.家の話 前振り

我が家は私が確か3つか4つに新築した家だ。お世辞にも立派な、大きな家とは言えないが、家族4人が暮らすには充分なものだった。ただ、道路との関係上、玄関がどうしても北向き、二階の二間も北向き。ベランダを南向きに造ったから仕方ないのだけれど。
その二間が、私と妹の部屋だった。
とにかく冬場は寒かった。日当たりがイマイチ悪い上、土壁だったってのもあるだろうけど、ストーブを焚いても部屋は暖まらず、上から下までモコモコに着込んで勉強したものだ。

今回は、小学生〜高校まで使っていた、その部屋にまつわる話です。
32.タンスの中から出てきた人の話

小学生高学年か、中学校になったころかは忘れた。その頃、私は二階の北西側の部屋で寝ていた。北東側の部屋は廊下に面する部分が磨りガラスの襖(?)になっていて、ベランダからの光をめいっぱい受けられるため明るいのだが、北西側は引き戸一枚で、しかも隣の部屋とは障子でしきられ、薄暗い印象の部屋だった。子供部屋と言っても、勉強机と本棚しかなく、あとは使っていないタンスが置かれているだけの質素なものだった。
その部屋で寝ていると、頻繁に金縛りにあった。
こんなこともあった。日曜日の朝、うとうとしていると、階段を誰かが上ってくる。母かな、と思ったらおもむろに引き戸を開けて入って来たのは、もやもやした黒い影。それが私の上に馬乗りになってきた…てこともあった。

そんな中でも、一番印象に残っていることがある。
ある夜、ふと目が覚めて、何気なくタンスに目をやると、タンスがおもむろに観音開きに開いた。スモークが焚かれたように煙りが溢れ出し、中から白い着物を着た人が「しずしずと」現れた。
上半身は暗くて見えなかったが、両手を前で重ねた姿勢と歩き方で「若い女性」だと分かった。その人は私の枕元に来ると、その場に正座した。
私は「母が来たのだ」と思って、特に怖いと思わず、そのまま眠ってしまった。
翌朝、母に「昨日の夜、私の部屋に来た?」と尋ねたが、「来てないよ」との返事。
じゃあ、あれは何だったんだろうな、と思ったが、あんまり深く考えると怖くなるので、「まあいいや」で流してしまった。

今思い出しても誰だか分からないのだが、「あの白い着物は死に装束だったな」と、そう考えていたのが思い出される。上半身が見えないのに、なぜそう思ったのかは不思議なのだが。
33.夕方の鈴の音の話

中学に入ったばかりのころ。その時の私の部屋は、明るい北東側の部屋だった(妹と話し合って一年ごとに部屋を交換していた)。
春の日の夕方、学校から帰って自室でのんびりしていた時。
鈴の音が聞こえた。ほんとうに「どこからともなく、『チリンチリ…ン』と響いてきた」と言う表現がぴったりだった。
最初は風鈴かと思った。人の歩く速さで、ゆっくりと、だんだん大きくなってくる。
お遍路さんでも歩いているんだろうか、それとも新手の宣伝カーかと思い、窓を開けた。
夕立後で地面がちょっと濡れていて、春の午後特有のちょっとなま暖かい空気のなか、近所の子供達がバドミントンで遊んでいたり、配達の車が止まっていたり。いつもの風景が見えた。
しかし、肝心の「鈴の音」を鳴らしているものの姿は見えない。
そのうち、いよいよ大きくなって来た。
耳を澄ましてみると、自分の耳の中だけで鳴っているようでもあり、空いっぱい鳴っているようでもある。やがて、鈴の音は小さくなり、消えてしまった。

鈴の音を聞いたのは、それっきりだった。
34.障子の髪の毛の話

高校になると、私の部屋は再び北西になった。
中学のころから深夜放送を聴き始めていたのだが、その頃お目当てのDJの開始時間が夜中の3時からだったので、毎週その日は目覚ましをセットして、夜中に起きて、こっそり聴いていた。
まあ、「そういう部屋」で、真夜中に起きる。何かあっても不思議ではない。と言っても、うつらうつらした状態の中でのことだから、「あれは夢だ」「気のせいだ」で済ませることのできることばかりなので大したことはない。
でも、どうしても分からないものがひとつあった。
その夜も、うとうとしながらラジオを聴いてるうち、押入の障子に何かが「生えている」ことに気づいた。外から入る街灯の薄明かりの中、よ〜く目を凝らして見ても、「髪の毛」が生えているようにしか見えない。障子の真ん中から2〜30pほど、「ふさふさ」とした感じもよく分かる。
数分間まじまじ見ていたが、結局眠気に負けてそのまま寝てしまった。
翌朝の障子に何もなかった。
35.天井の顔の話

私に限らず、実は妹もこの部屋でいろいろ見ている。
小学生のころ、北西の部屋で一緒に寝ていた時、天井を見ていた妹が「あっ!」と声を上げると同時に、「パシッ!」と音がした。
「今なあ、天井の梁のところに、赤い光がさっと走ったで。消えたとたんに『パシッ!』って鳴ったわ」
と、教えてくれた。
しばらくして、別々の部屋で寝るようになった。その時、一度真夜中に目が覚めると髪を振り乱した女性の顔が天井いっぱいに広がって見えたそうだ。
その時の妹。「寝ぼけとるわ」と、さっさと寝直したそうな。
36.妖精の声を聞いた話

さて、この頃の私の愛読書のひとつに、「MU」があった。そうです、あのオカルト・ミステリー誌の。もっぱら怖い体験談目当てで買っていたのだが、中特集として、妖しげな呪術方法も紹介していた。その中に、「妖精を呼ぶ方法」が書いてあり、何を思ったのか、これを実践してみよう、と思いついた。
さっそく必要なものを集め、家族が寝静まった夜、こっそり始めた。
が、いざ始めてみると、急に怖くなった。
「本当に『コワイもの』が来たらどうしよう」というのもあるが、「お母ちゃんに見つかったら怒られる」という別の恐怖心も出てきた。というのも、このまじない、ローソクを焚いたり線香を燃したりで、匂いが残る。それでバレたら…と考えると、落ち着かなくなったのだ。
結局おまじないをそそくさと終わらせ、さっさと片付け明かりを消して寝床に潜り込んだ。
ようやく一息ついて、うとうとしかかった時、金縛りにあい、「パチン」と音とともに頬を撫でられた(叩かれた?)。同時に耳元で声、というか、キュルキュルと言う音(?)がした。
まるで「ハイジの声をテープで早回ししたような」声のようだった、と記憶している。
よく聞き取れなかったが、「呼び出しておいて放っておくな」みたいな感じの内容だった。その時の私は、たぶんひたすら「ごめんなさい」と謝っていたと思う。
夢や気のせいで片づけるには、あまりにも鮮明なものだった。
37.袖引き小僧の話

オマケです。これは家の話ではなく、小学校の通学路で起きたこと。

3,4年生の頃、いつものように通学路を通って帰っていた。
川沿いの土手で舗装されてなく、向かいは小山。土手の側に民家が並んでいたので、人通りがそれほどない、ということもなかった。
赤い泥のその土手を、一人でてくてく歩いていると、不意に制服の袖を引かれた。かなり力が入っており、思わず後ろを振り向いたが、誰もいなかった。
その頃読んだ妖怪図鑑の中に、「袖引き小僧」とがあった。歩いている人の袖を引く妖怪。
「ああ、それかな?」
と、一人で納得した。正体が分かった、というものあるのだろう、特に怖いとは思わなかった。
その後、卒業するまで通学路を使ったが、「袖引き小僧」らしきものと遭遇したのは、その一回だけだった。


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